劇アツ!! 1年期

 

 

メインテーマ「絆」

 

プロローグ ―幕が上がる頃―
1.開演
2.早起きして三人の友
3.平成22年4月7日
4.自己紹介
5.部活動説明会
6.担当顧問・竹内の提案
7・若人よ、夢を持ち、前へ進め
8・熱血少年
9・生徒総会にて
10・演劇同好会の歴史+なかがき
11・ひとりぼっち
12・テストと大事なこと
13・新参者の運だめし
14・Fantastic world
15・始まりはいつだって君から
16.レジェンド・オブ・ナイツ
 

 

 

 

プロローグ ―幕が上がる頃―

 

 

 感動と興奮が体の中を埋め尽くした。
かつて自分が生きてきた十五年で、こんなにすごい衝撃を感じただろうか。今まで気づけなかった事に対して、悔しさのようなものが込み上げると同時に、ようやく出会えた事への胸の高鳴りが起きた。
今、目に映るものや耳に響く音、声が体の中に流れ込むたびに、自分もやらねばという熱い気持ちが湧いてくる。どうしてなのだろうか、やればその答えは見つかるだろうか。
今すぐにでも、舞台に上がって自分もやってみたい。が、そうもいかないだろうから、来年まで待つ。来年になって高校で部活に入れば思う存分やれるだろう。それまでの辛抱だ。
「けっこう子供から大人までいっぱいいるねぇ。割と面白かったよね。このチケット、高いだけはあったって感じ」
帰り道、母もやはり興奮しているようだった。これは血であるな、と少し納得した。
「どうだった、カズくん? まぁまぁ?」
不意に尋ねられて、たまっていた興奮と共に思わず声を張り上げる。
「? まぁまぁ? じゃない。か! な! り! だ!」
母は突然大きな声を出した息子に少しびっくりしたようで、口が半開きになっている。
「俺は運が良かった。きっと何か始まるぜ」
 唖然としている母親の意識を起こすように、宣言をした。
体がすでにゾクゾクしている。顔が勝手にほころぶ。早く来年にならないかな。頭がそればかりだ。
――そして、一年後。

 

1.開演

 

 瞼(まぶた)をゆっくりと開けると、まだ薄暗い部屋が広がる。目覚まし時計を確認すると、セットした七時よりも一時間早い六時だった。
普通に考えると、眠くて二度寝してしまうのだろうが、今朝は随分と頭がすっきりしている。今日から高校生活が始まるせいだろう。そう思いながら、西側のカーテンをバサッと気持ちよく開けた。部屋の中が一瞬で少し明るくなった。
窓の向こう、遠くには散りかけた大きな桜の木が見える。一機(かずき)の通う勝木(かちぎ)工業高校はその桜の木よりも、もっと向こうだろう。太陽が昇ってきたのか、眺める景色が少し明るくなり始めた。
今から朝の支度を済ませて通学、という考えも生まれたがそれはやめることにした。さすがに朝早くからドタバタと音を立てて家族を起こしたくは無いから。
そう思って二度寝をすることにした。七時に起きようと思って目覚ましは掛けたまま。
再び起きたのは六時半だが。

 窓の外は爽やかな春の朝となっていた。布団から一気に飛び出した一機は、激しい音を家中に響かせながら一階へと下りていった。朝早くから静かなはずの家が賑やかになったので、そのうちに家族も起きてくるだろう。
洗面所で顔を十回ほど洗った後、さっぱりしてテンションを上げながら居間にゆくと、予想だにしていない光景が広がっていた。
「あ、おはよーカズくん」
「おお。今朝は早起きだなぁ、カズは」
母と父が起きている。母はキッチンで何かを炒めている。父は椅子に腰掛けながら今朝の新聞を読んでいる。自分が一番早く起きたと思っていたので、驚きだった。
「早いね、今朝は」
つい聞いてみたが、答えは簡単なのだ。気づいたのは言った後だったので遅かった。
「家族の朝食、それにお父さんの弁当作んなきゃねー。今朝は五時半起きだったよ」
母は少し笑いながら、振り返ってそう答えた。
「そう、そうですか。ご苦労様です」
炒め物の音は気づいてもおかしくないだろうと自分の中で疑問が生まれたが、自分自身で大きな音を出していたので気づかなかったようだ。どれだけテンションが上がっていることやら。動揺して言葉まで丁寧になっている。
「カズ」
「はい」
いきなり父に声を掛けられて、体が固まった。家族のために早起きし、それに対して何も意識せずに尋ねてしまった自分が、あまりにも失礼だったから怒られるのかと身構えたためだ。
「お前は間違っている」
「はい」
「年上の人に対して、そういう言葉を使うもんじゃない」
「はい」
「ご苦労様は年下に使う言葉だ」
「はい?」
「年上の人に対してはお疲れ様です、だ」
「はぁ……」
予想だにしていないポイントを突かれて、一気に気が抜けてしまった。どうだっていいじゃないか、と思うようなことを気にするのだ、父は。
「いいか、よーく覚えておけ。きっと将来役に立つ」
そういうと、父は満足げな笑顔をこぼしながら新聞に目を戻す。朝っぱらから、どんな会話をしているんだこの父子は、と心の内で一人ツッコミをいれる。もう一度顔を洗いなおそう、と洗面所に向かった。
洗面所に続く廊下の先にある階段から、妹が降りてきた。目をしょぼつかせながら、時折あくびをしている。一機の存在に気がつくと、まだ眠そうな目で軽く睨みを効かせる。
「お兄ちゃん、うるさい」
「なんだ、フタ。俺何にも喋ってないぞ」
ついこの前まで小学生だった妹は、今年の春から中学生となった。まだ生意気な面が残っているところが、子供っぽいと家族みんなから言われる原因だろう。ちなみにフタとは鍋蓋のことではない。妹の名前が二つ目の季節で二季、フタキ、フタとなっているために呼び名がそうなっているのだ。
「さっき、家中にうるさい音響かせたの、お兄ちゃんでしょ」
「え? あ、あー……………………、まぁな!」
 きつい口調で言われたのでつい開き直ってしまった。二季はサイテー、と一言言いながら冷たい視線を浴びせ、そのまま洗面所のほうに足を向けた。アニ、カナシイ。
「何だフタも洗面所か」
そう言っただけで、またも妹は兄を睨む。兄嫌い過ぎるだろう、これじゃ。何を言っても会話が出来ないのではないか。中学生になって思春期に突入したようだ。しかし、女の子はよくわからん。一機が中学生の時も、ほんのちょっとしたことで女子との気まずい雰囲気が流れることがよくあった。歳を重ねると心も変わるものなんだなぁ、と一人妙に納得してしまった。まだ妹は睨んでいるけど。
「……トイレだよっ」
ぶっきらぼうな調子でそう言葉を吐くと、洗面所の隣のトイレへ歩き出す。
トイレ、とは女の子にとっては失礼なフレーズのようだ。今後気をつけなければ。トイレダメ、トイレダメ。心の中で何度も反芻(はんすう)する。……ん? トイレ? そういえば今朝起きてから、まだ一度もトイレに行ってないことに気づいた。他人が行くとなると、どうして自分まで行きたくなるのだろうか? 人間って不思議。いや、そんな場合じゃない。
「……あー、フタ。お兄ちゃんを先に行かせてはくれないかい?」
「だめ、絶対」
 何故そんな、麻薬の取締りのポスターに書いてあるような、標語みたいな言葉で冷たく言うのだ。兄は麻薬みたいなものか。いや、それ以下か。だから、そんな場合じゃない。
「お兄ちゃんの後はぜっっっったい、嫌」
もう一度言い返そうとしたが、その前に言われてしまった。嫌、って。そりゃないだろう。父親と洗濯物を一緒にされるのを嫌がるのはなんとなく分かる。しかし、今の時代。兄妹もアウトなのか。しかもトイレ。
一機が家族の絆について朝から考え事をし始めている中、二季はトイレに入ってしまった。一人廊下に残された兄は妹が終わるのを静かに待つことにした。下半身に気合と力をこめて。ぽつんと。足を内股にして。アニ、サビシイ。

 

 その後、無事にトイレ小戦争を終え、食事も学校に行く支度もすませた。支度といっても今日は入学式なのでそんなに大荷物ではない。バッグの中身は筆記具と、合格発表時にもらった何枚かの資料ぐらいである。たぶん帰りには教材、学校の資料、その他もろもろでいっぱいになるだろうから、あまり詰めては入らなくなる。そのために少しでも余裕を持たせておく必要がある。
ほとんど空っぽに近い状態のバッグを軽やかに背負い、玄関へと駆ける。ちなみにうちはクリーニング店でもあるので、玄関といった玄関は無い。裏口もあるが、こちらは出ると塀に挟まれながら外に向かう羽目になるのであまり使わない。店の入り口から出て行くことになる。
「だからお兄ちゃん、駆けるとうるさいって」
後ろから、まだ通学時間には達していない二季の不機嫌そうな声が届いてきた。まだトイレについて、いや家族に対して不満が残っているのか。
「うるさいなぁ、もう」
「どっちの方がうるさいか、考えて」
まるでこれでは姉が弟を叱っているようだ。なんだか兄の威厳だの何だのはどこへやら。
「お父さん、俺は妹の前にトイレしちゃあいけないんだってさ」
少し遅れて、後から背広姿の父がやってきたので、二季には聞こえない程度の声で愚痴を漏らす。
「そうか……。お父さんもだ」
悲しきかな、父と息子は似たもの同士。いや二季が単純に男嫌いなだけか。そう考えると今後の妹の人生が心配になってくる。一生独り身なのではないかと思ってしまう。家族でさえダメなのだから。まてよ、家族だからダメなのか。どんどんと考えが深みにはまっていく。どうも自分は一つのことを考えたら、とことん突きつめようとする癖がある。いったい誰に似たんだか。
「一機、今度家族でじっくり会議でもするか? お父さんとお前は無害だってことを」
この人だ。間違いない。そこまではいかないけど。
「二人とも、何話してるの。遅れるわよ。何々?」
朝の家事がひと段落した母親が台所のほうから、早足で近づいてくる。かなり興味津々のようだ。遅れると忠告をしているにもかかわらず、自分が話したいのだ。
「いや、なんでもないから」
「えー? お母さん置いて秘密の話?」
適当にあしらったつもりだったが、割と食いついてくる。そうだ、この人もだった。何かひとつにはまると止まらなくなるのは。一度友達に誘われて舞台を見に行ったら、その日にはもうすでに別の舞台のチケットまで買っていた。そこまでいきなり好きになれるのも凄い。まぁ、それがないと今の自分は形成されていないけど。
「お母さん、後でじっくり話そうか」
「あらそう。それじゃあ後でね」
父が母にいらぬことをした。母もいらぬ約束を受ける。この二人だと本当に後で真剣な話でもしてそうだ。まぁ、気持ちは分からないでもないが。――はっ。……やはり自分は二人の子供なんだなぁ、と改めて思った。
コートやスーツなどが所狭しと、ビニールカバーの被った状態でハンガーに吊るされていたり、棚にしまわれている。その中を掻き分けるようにして、息子と父親はガラス戸を開けて、外へと出た。気持ちのいい日差しが体に当たって気温が少し上がったのが分かる。春だ。
「カズ、お前は通学時間には早いんじゃないか?」
いつもどおりの時間で出勤する父が、いつもとは違う時間に通学しようとしている息子に心配の言葉を掛ける。確かにこの時間はやや早いかもしれない。中学の時は三十分ほど遅めだった。
「大丈夫だよ。きっと他の人も早く来てるって」
何の根拠も無かったが、何だかこの時間に行くべきな気がする。というかじっとしていられない気になる。
「はーい。二人ともいってらっしゃーい」
ボルテージが上がってきている兄に対して、妙に眠気のあるローテンションな声が後ろから聞こえた。振り向くと二季の姿があった。なるほど、さすがに家族の見送りにはきちんとくるようだ。さすがはわが妹。
「お母さんに言われて、きた」
自分の意思で自主的にきたというわけではない、という感じだ。……まぁ、言われてもこないよりはましだな、と納得させる。
二季はまだあくびをしたり目をこすったりしている。よほど眠いのだろうか、なんだか朝から悪いことをしてしまった罪悪感にさいなまれる。
「はぁ~あ。春休みももう終わっちゃったなぁ」
どうやら休み明けが嫌なようだ。これでは中学に入学してもこんな調子ではダメなのではないだろうか、と心配になってくる。これから友達を増やしたり、放課後部活動に励んだり、楽しいことがたくさんあるというのに。ここは兄として元気付けてやらねば。隣にいる父ではいかん。余計心配を増やす。
「何言っている。終わりじゃない。これからだ! これからいろんなことが始まっていくんだよ。なんてったって春だからな!」
「へぇ〜、そう」
「そうだ。熱いぞ。なんていうか……こう……、ヒートライフッ! って感じかな」
「よくわかんないけど、お兄ちゃんは元気だね。あ、大きな声あんまり出さないで。今、朝だから」
元気が伝わったかどうかは別として、とりあえず言いたいことは言った。満足だ。
「よく言った」
隣で父が目を閉じて、うなずいている。父も同じ気持ちだったようだ。やはり母と父の子供だな、と感心しながら微笑む。
「よし! いくぞーっ!」
 気合を入れて大きな声を出した。
「だから大声を出すなって」
次の瞬間、また妹に叱られた。

 

 2.早起きして三人の友

 

 
 

 自転車をこいで、ただ西へと進む。背中には朝日が当たり、少しだけ暖かく感じる。
朝早くなので、人や車は少ないと思われていたが、案外多かった。前から学生服姿の高校生がすれ違った。逆の方向、というと勝木高校がある方向だ。勝木高校は県立校だが、学力や部活動のレベルが高く、進学校としても優れていることで有名だ。一機の家から距離的にはそちらの方が近いのだが、そんなレベルを持ち合わせていないため勝木工業高校を選んだ。
ちなみに学校にはそれぞれ通称があり、勝木高校を勝(かち)高(たか)、勝木工業高校を勝(かち)工(こう)という。勝高を?かちこう?と呼ぶのは誤りである。人からどこの高校に入ったのかと聞かれて「かちこう」と答えて、勝高と間違われるのはしょっちゅうである。「勝木工業」と言い直すと、「あぁ……、あの……(あの不良で有名な所ね的な言い方)」と言いよどんで、レベルが高い所から低い所へ落ちたことに対して、気の毒そうな顔をされることもしょっちゅうである。
そんな切ないことを考えているうちにも自転車は進んでいく。心なしか速度が落ちていく。心なしか。
「おい! おーい!」
ふと後ろから低い声が飛んできた。聞き覚えのある声だ。
「なーにのろっとしてんだっ。朝っぱらからよぅ」
「おぉ。三浦」
三浦と呼ばれた同い年の少年は自転車を真横に並べた。彼は同じ勝工生として今日から通う同級生でもあり、中学時代からの親友でもある。三浦は一機の顔を見ると、にっと笑った。それを見るとこちらまで思わず笑ってしまう。こっちが元気が無い時に元気がいいところを見せて、相手が元気が無い時にはこちらが元気のあるところを見せる。互いにそうやることで、元気にさせる。これぞ友情パワー、だろうか。
「今日から高校だからたりぃのは分かるけどさぁ」
「いや、俺はそれで落ち込んでるわけじゃない」
「じゃ、なんよ? 女? 女系?」
「違う、学校の名前」
「…………」
黙り込んでしまった。それはそうだろう、わけがわからない。期待していた女系でないことにも落胆しているだろう。そんな悩みを持ってみたいものだが。
「……まぁいいや。走ろう!」
「は」
「学校にどっちが早く着くか、競争だ!」
そう言うと。自転車を猛烈なスピードで漕いで、一機をどんどん離していく。多分、考えることを諦めたのだろう。その上、競争心の高い性格に火をつけてしまったというわけだ。こうなればこちらも受けてたつしかない。そう決意してペダルに乗せた両足に力をこめて、猛烈に強烈に漕いだ。
「うらああぁあぁぁああぁ!!!!」
叫び声と共にあっという間に三浦を追い抜いた。すぐさま三浦も後を追いかけてくる。
走り抜ける街の中で、早朝見た散りかけの桜の木が見えた。近づくと、ほんの少し残っていた桜の花びらが舞って、体の周りを通り過ぎてゆく。そうだ、春なんだ、と思った。桜は散ってゆくけど、春真っ盛りなのだと、ふと感じて気持ちが高ぶった。
「三浦―っ! 俺達今、春駆け抜けてんぞー!」
「あー!? なんだってー?」
 青春を謳歌したくなって、つい格好つけて叫んでしまった。聞こえなかったのならもういい。恥ずかしくなる。
三浦の声には応えずにグングン走り抜ける。恥ずかしさも相まってガンガン走り抜ける。彼ら二人の姿は街行く人々にとっては、異常の何者でもないだろう。朝っぱらから若者が自転車レースなんてやってるのだから。彼らを止めるものはいないのだろうか。止まらない、止められないといった感じだろう。
「あ、信号赤」
キュッという小気味いい音を出して二人は止まった。止められた。交通ルールはきちんと守る二人であった。あっけねぇ。
 
 街を抜けて、橋を越えて、山のすぐ傍に建てられた学校が立工である。周りが山、川、田んぼとちょっとした民家だけなので田舎! といった印象を与える。今の時期は道の所々に桜の花びらが落ちている状態のようだ。
さて、先ほど信号が青になった途端、再スタートした青春ボーイズは学校にたどり着くところであった。
「ゴール!」
「はっえぇ! 超はえぇっ!」

一着、秋野一機。二着、三浦智(さとる)。息を切らしながら校門を抜け、そのまま自転車置き場へと行く。自転車置き場はクラスごとに異なり、毎年変わっていく。一年は体育館脇と校門前の二つに分かれているが、一機達は体育館脇である。止められている自転車の後ろには一年には緑、二年は青、三年は赤色のステッカーに『勝工』の文字とクラスと番号が書いてある。これが張ってある限り、どこかで騒ぎを起こしたらすぐに学校に連絡がいくわけだ。もっとも、周りはそんなことお構いなしに、何かやってしまいそうな雰囲気の奴らばかりだが。
昇降口の扉に一年生のクラス表が掲示されている。この学校は専門学科のみで構成されており、普通科は無い。学科は機械M科、電気E科、電子D科、情報技術C科の四つだが、一年生時は電気科と電子科は一つになっており、電気・電子e科である。一機たちはこのe科なのだが、e科とM科は二クラスずつある。二人が離れる可能性は大いにあるのだが、結果はどうだろう。
「あ、すぐ見つかった。e1‐1、一番秋野一機」
「うわ、一番かよ。いいねぇ、わかりやすくて。俺は…………e1‐1、三十八番三浦智。また、いっしょか」
どうやら二人は一緒のようだ。同じ中学の知り合いが少ないと、さすがにこういう時は少し不安になる。
三浦のほうを見ると、ほっとしたような顔をしていた。お互いに不安だったのだろう。
「よし、行こうぜ!」
テンションを上げて、大きな声を出す。これこそ安心感のある友の技というものだ。一機は一人、満足げに大股で廊下へと進む。
「そっち三年の教室だぞ」
「えっ」
大股にしたまま足を止める。ちょっとキツい。
「一年は三階らしいぞ」
「えぇ? ……やんなるなぁ」
どうやら教室は学年ごとに上の階からのようだ。つまり毎日階段を昇っていかなければいけないということだ。テンションが一気に下がっていくのが、全身に伝わっていく。
「よし、競争しようぜ」
「ん?」
「次は負けねー、かっ、らっ」
勢いをつけて階段を昇り始めてしまった。本当に競争心が強いというか、負けず嫌いというか。周りがまたこちらを見ている。まぁ目立つのは嫌いではないけど。しかし目立つ場所にもよる。ここは割と柄の悪い者達が多い高校と有名なのだと、何度も頭の中で言い聞かせる。
よし、いこう。
あまり留まっているのも良くないと判断し、三浦を追いかけた。三階まで上がるのは少々朝のデッドヒートが響く。上がり終わると廊下の先に三浦が教室に入るところが見えた。が、すぐに出てきて別の教室に入りなおした。どうやら教室を間違えたらしい。遠くから見ていると馬鹿丸出しである。いや、人のこと言えないけど。
後を追って、電気・子科一組の教室に入る。席は一番なので、廊下側の一番前だ。三浦の席は窓際のはずだ。姿を確認すると、得意気な顔で近づいてくる。
「おーう! 遅かったじゃねぇかよ。何してたんだよっ」
お前こそ何してんだ、と言いたいが、ここは友人に恥をかかせるわけにはいかない。今現在初対面ばかりの教室なのだから。そっと胸にしまっておこう。
「お前こそ何してんだ。教室間違えて」
我慢できなかった。ついツッコんでしまった。
「……ち、ちげぇよ! あれは、確認だよ。そう、確認。隣が二組なんだなという確認」
「へぇーっ!! じゃあもう一つの隣の機械科にもご挨拶に行かなきゃな!」
負けず嫌いが感染してしまったようだ。つい言ってしまった。あばよ、わが友人よ。学校生活初日から恥をかいてきなさい。
「……よし、わかった。じゃあおまえもな!」
「はぁ!? なん……っ! わかったよ! 行ってやるよ!」
もう誰にも止められなかった。自分自身でも。周りが唖然としている。それでも二人は隣の教室に行き、大きな声でおはよーっす、うぃっす等と恥も外聞も無く叫んでいった。幸いだったのが、あまりこの学校に知り合いはいないということだ。いたら即連絡網メールで他校の同級生に噂されてしまうだろう。
その後、妙なテンションのまま教室に戻った一機は自分の席に戻った。傍には同じく妙なテンション二号の三浦がいる。見渡すと、二人が騒いでいたうちにも少しだけ生徒が増えたようだ。耳に入る音や声が賑やかになっている。
「いやぁ、すごかったね。なんかこっちまでテンションが上がりそうだったよ」
後ろの席から透き通ったような声が、喧騒の中を吹き抜ける風のごとく一機の耳に届いた。
振り向くと、にこっと爽やかなイケメンスマイルで応えてくれる。嫌味ったらしい笑顔ではなく、やわらかい微笑みといった感じで好印象を持った。悪いものではないようだ。
「えーっと二番の……んーと、今井君?」
クラス表を見たときを思い出しながら、確認するように目を見て訊ねた。
「そう、今井。よろしく」
よかった。当たっていたようだ。
「よろしくー。あ、俺秋野。こっち三浦」
「ちぃーっす」
「どうも。さっきのは見てて楽しかったよ。緊張がいくらかほぐれた。ありがとう」
ありがとう、と先ほどと同じ爽やかスマイルを投げかける。
「なんのなんの、こちらこそ爽やかにしていただきまして」
「? うーん、どういたしまして?」
よく分かっていないようだが、まぁ、それはいい。
隣の席に勝手に座っている三浦は、なんとなく理解しているようだ。うんうんと頷いている。そんな三浦の前に、手前の扉から入ってきた少年が立ち止まる。どうやら席が三浦に占領されて困っているらしい。
少年の体は高校一年生なりたてにしては随分と体格がよく、いくら三浦でも敵いそうもない。
「……おい、……おいっ、三浦っ」
「ん? あ。あぁ、すまねぇな。今どくからよ」
声を潜めて三浦に教えたが、当の本人はあまり気にすることなく、何てこともないように席を外れようとする。
そんな三浦の前に少年はにゅうっと手を差し出す。太く大きい厚い手が三浦の体に伸びる。まさか殴りあいに? いやいやそれはまずいだろう。今井も笑顔が消え少し不安そうな顔になってしまっている。
「いいよぉ、座ったままでぇ。バッグ置くだけだしぃ」
緊張感のない間延びした声が発せられた。一瞬にして気が緩んだ。それも立ち上がった三浦がズッコケをする位。それはもう見事なズッコケで。
「なんだぁ、お前? 面白い奴だな」
三浦はそのまま椅子に構わず座った。三浦よ、相手が優しいようで命拾いしたな、と心の中で呟いた。
「よーし、俺は三浦ってんだ。お前の名前を教えろ」
三浦よ、それはあまりにも横柄ではないか。不良だったら地獄行きだぞ、と心の中で呟いた。
「俺ぇ、大内って言うんだぁ」
そこまで聞くと三浦は、大内の伸びたままの手をがっちりと握る。
「よっしゃ、よろしくだ!」
まったく怖いもの知らずな奴はたくましいもんだ。
「おい! 俺と今井も忘れんな! あ、俺は秋野。よろしくな!」
三浦に続いて元気よく手を出して、大内と三浦の手を握る。
今井は微笑んだまま、どうしたらいいものかといった顔をしている。ここは自分が強引にでも乗せなければ、と何故か強く使命感のようなものが働いた。
「今井! お前も早く手ェ乗せろっ。これからよろしくするんだからよっ」
今井の手を掴んで三人の手に被せるようにくっつける。これで四人の手になった。
「よーし、ではこれから長いこと、世話になるぜ! みんな! よろしくっ!」
大きな声で挨拶をすると、今井もつられてよろしく、と言った。よしよし、これでいい。
「これから三年間は楽しくなりそうだなぁ」
今井が心の底から思ったのか、満面の微笑で呟いた。他のクラスメートが若干引き気味だが、そんなことは関係ない。俺達は今、体も心も熱くなってきている。それだけで充分だ。今井が言った通り、何かが起こりそうな楽しい学校生活になりそうだと感じた。

 
 

 

3.平成22年4月7日
 

 
 午前九時、入学式が始まった。三十分前から待っている新一年生は、春休みの気分が抜けていないのか半数は眠気に負けて、首を落としている。二年生、三年生は慣れているものだ。寝ているものはあまりいない。ただ、律儀にパイプ椅子に座って、待つような性格良しの生徒は少ないようだ。あちらこちらで足を組んだり姿勢を崩して、周りの者と談笑をしている。中には春休み中に入学式の準備をさせられた生徒達もいるので、不機嫌そうに、まだかまだかと睨みを利かせている者もいる。そんな目線を我らに向けられても。
体育館のステージ上に登壇した教頭は、一度咳払いをして開式の言葉を述べた。きっと、自分に対して気持ちを落ち着かせるためと、もう一つは騒がしい生徒を鎮ませるための咳払いだろう。しかし、そんなことで屈することはない生徒達は、鎮まるどころか教頭が緊張して手と足が同時に動いた事で話題を増やし、余計にうるさくなった。教頭はただでさえ脂汗で、てかてかと輝いている顔をさらに汗を重ねてべったべたになってしまっている。ハンカチで拭いても拭いても、吸い取りきれていないようだ。途中から諦めて拭くのをやめた。
「はい、静かにしてください」
 不意に体育館に男性教諭の声がマイクを通して響いた。言葉自体は丁寧だが、その言い方に凄みを感じさせる特有の重みがあった。
それまでざわついていた中が、一瞬にして収まったと思われたが、一部はそれでも静かにならなかった。どうやらこの程度では参らないようだ。
「静かにっしろ!」
 突然声を荒げて注意をする。館内全体に響くので轟音があっちで跳ね返る。こっちで跳ね返る。耳が痛い。この声は不良たちにも効いたようで、今度は完全に静かになった。
落ち着き静まり返ったのを見計らって、男性教諭はまた落ち着いた声を出す。
「それではまず、学校長式辞です。全員、起立! …………礼。…………着席」
掛け声にあわせて。生徒と教師達がいっせいに頭や腰を動かす。誰もがふざけてはいけないと理解したのか、何事もなく式辞が始まった。
「えー、新入生の皆さん、はじめまして。校長の坂崎(さかざき)です。よろしくお願いします。あー、みなさんは昨年度までは中学校で勉強を習っていたと思うのですが、今年度からは高校生として過ごしてもらいます。高校生とは世間一般でいうと、もう大人の一員であります。ですから日ごろの行動から……」
どうして校長の話というものは、小学校だろうと中学校だろうと高校だろうと、こうも眠気を誘うのだろうか。まったく『眠って待っててね』といわんばかりである。この調子では三十分は掛かるのではないだろうか。時計を見る。午前九時十分。たしか予定表では十一時まで書いてあった気がする。どうして二時間も時間をとる必要があるんだ。この後、新入生と在校生の代表による送辞だの答辞だの、校歌を歌うだのがあっても二時間はないだろう。まったく眠い眠い。あー眠い。そう思いながら瞼を開けた。
ん? 瞼を開けた? ……なんだかどうやら寝ていたようだ。一番前だから眠っているのがばれると、後が怖いものだ。一体どれほど眠っていたことやら、時計を確認する。九時三十分……。二十分も寝ていたとは。ちょっとした時間旅行ではないか。
「えー、学校生活の中でも勉強だけやればいいというわけではなく、年間行事や部活動にも励んでもらえたらなと思います。特に部活動は全員が入るようになってほしい。只今、加入率は二、三年生だけでも三分の一程度なので、ぜひ今からでも入ってほしい」
どうやらまだ校長の話は終わっていなかったようだ。長い。部活動の話になると、所々から「だりぃ」、「めんどい」といった否定的な声が上がる。もちろん校長の耳にも入っているはずだが、そんなことは気にせず、平然と話を続けていく。さすが校長というだけはある。教頭とは違い、汗もかいていない。ほんの少し感心。……ほんの少し。
しかし、部活動加入率が全体の三分の一とは、かなり少ない。何故、皆そんなにも入りたがらないのだろうか? などと早く部活がしたい人間にはまったく分からない。
その後、さらに二十分ほど疲れも見せずに話を続けていった。成る程、これなら二時間分の時間を取っていたことも納得である。長すぎる。聞いているほうはグロッキー状態の者ばかりなのに。さすが。好調である。
続いて新入生の氏名を一人ずつ呼んで、呼ばれた者は返事をして立ち上がる。たまに「あれ、これ何でやるの?」と疑問に思ってしまうが、恒例なのでしょうがない。上級生の皆さん、今しばらくお待ちを。
どんどんと呼ばれていく中、中々な大声で返事をしたら案の定目立った。笑い声も聞こえた。もうこれでいい。これでいこう、と決めた。遅かれ早かれ、目立つことになるのだ。いつかなるのなら、今だ。
名前が全員呼ばれ終わると着席した。
「新入生式辞、新入生代表、情報技術科、金城(かねしろ)隆(たかし)」
今度はこちら側が喋る番のようだ。まぁ、喋るといっても代表一人だけなんだけど。呼ばれてすぐに頭の良さそうな返事をした、眼鏡男子は体育館の前方に立ってるマイクまで歩く。頭の良さそうな返事って何だ。そういえば入場する際に三年生の席の傍を通った時、こんなことを聞いた。
「もしかしたら、また新入生代表、情報?」
一瞬気づくのに遅れたが、情報技術科を略して?情報?と呼ぶのが、どうやらこの学校では一般的らしい。
「でしょーねー。来年の生徒会長もそうなんじゃないの?」
「ま、頭のいい連中だしな」
ほめ言葉のようだが、その言葉を吐いた電気科三年生は不愉快そうな顔をしていたのが、横目でもはっきりと見えた。それは悔しいというより単純に「勉強できる奴は嫌いだ」といった気持ちからだろう。
うちのクラスは丁度真ん中の位置なので、現在目の前に代表生徒がいる。この生徒もこれから大変だろう。こんな学校にいては、と同情にも似た気持ちで見る。
そして、代表生徒はわりとスムーズに式辞を読み終えたので、早めに終わった。ナイス、代表。株が上がったぜ、きっと。心の中で少しばかり祝福をした。
しかし、まだまだ式は終わらない。この後、対面式・校歌斉唱と進めていき、ようやく時計の針が十時半を過ぎた辺りから、式を終えて生徒は退場をし始めた。予定より三十分ほど早く終わったが、思った以上の疲労感があった。鋭く目を光らせる教師達や、不良オーラ全開の生徒達に囲まれていたこともあるが、いやはや最初からこの調子ではこれから先、息が詰まる思いである。なるほど、これなら部活動加入率が少ないのも納得だ。学校に対して楽しいと思うことができていないようだ。自分はこんな空気には飲まれまいという、一つの決意が生まれた。
ところで、周りの者たちはどうだろうか。まさか飲まれてはいまいな、と思ってしまう。すぐ近くにいた今井に、軽く尋ねてみた。
「なぁ、今井。お前、もう入る部活決めた?」
「え? あぁ、うん。陸上部に入ろうと思ってるよ。中学もそうだったし。長距離やってたんだ」
「おぉ、なんか今井が走ったとこ、想像したらかっけーな!」
「あはは、ありがと」
スマートな体に似合ったスピーディーな競技。ぴったりだと素直に思った。今井の肌はほんのり小麦色で、太陽の下で走りに時間をどれだけ費やしていたかが伺える。うん、今井なら大丈夫だろうと安心した。嫌いでやるのなら、ここまで染まらないだろうから。
「秋野は? 部活。何か入るの?」
今井に聞かれて頭に一つの部活が浮かんだ。今はそれがやりたくてしょうがない。それしか決めていない。それをやるがために、わざわざ高校の資料集で、その部活があるかどうかチェックして決めたもんだ。その部活がなかったら、こんな不良校には来ていない。
中学の時は野球部に入っていながら、他の運動部の助っ人として駆け回っていた。野球部自体、人数が多く、様々な部を回っていたので友達は多かったが、何かいまひとつだった。もっと打ち込めるものが、新鮮な刺激物がほしかった。
そんな時、一年前の春に出会った『アレ』がきっかけで、体の中にたまっていたもやもやが吹き飛んだ。そうだ! これがしたいんだ、俺は! と思った。出会うべくして出会った気がしてならなかった。
高校の進学の際には、各高校の情報が載った資料集でその部活があるところを探した。なるべく近くて、金の掛からない、レベルも高すぎない、勉強に時間を注がず部活に専念できそうなところ。探してみたら条件の合うこの高校の欄で発見したが、部ではなくて『同好会』という項目に載っていた。しかし、この条件に合う高校は他には見当たらなかった。もうこの高校に入ること自体運命なのでは、とさえ感じてしまったので即決した。
考えてみれば同好会を部活として承認してもらう、ということはやりがいがある。胸の中でまたアツいものが流れる。やる気で満ち溢れる。育ててみせる、部に。だから質問にはこう答える。
「俺か。俺はな! 演劇部にする!!」

 

自己紹介

 

 

 教室に戻ってきた生徒たちは自分の席に着く。これで帰れるわけではなく、この後自己紹介を一人一人する。名前・出身中学校・趣味・何か一言といった具合だ。普通に考えれば、これぐらいなら簡単だろうと思うが、一機は?一番最初?なのである。他人の紹介を参考にするということが出来ないのだ。早く何を言うか考えなくては。自分の印象をよくするためだけではなく、次の番の今井にうまく繋げられるような答えをしなくては。うわ、受験の時より緊張してきた。だが、これぐらいのことでビビッていては、演劇などとても耐えられない。やるんだ。練習だと思え。
「はい、それじゃそろそろ考えも定まったろ。自己紹介始めるぞー」
来た。
担任がパンパンと手を合わせて、教室を静まらせる。
「それじゃー、一番、頼むぞ」
よし。
「はいっ。秋野 一機、富士見川中学校出身です。趣味は舞台鑑賞」
「はぁ? ぶたいかんしょう? まぁまぁ大人だこと」
「普通じゃねー。何アイツー。きめぇきめぇ」
 趣味の項の時点で、クラスの一部がざわついている。しかし本当のことだから仕方が無い。こうなることも予想済みだ。飲まれてはいけない。ちなみに、『きめぇ』とは『気持ち悪い』が『きもい』に変形して、それがまた変形した結果だ。いや、こんなことどうだっていいんだ。
「俺はこの高校の演劇同好会に入って、演劇部に昇格させる目標がある。みんな、観に来てくれよな! よろしくっ!」
言った。言ってやったぞ。自分の気持ちに正直にやりたいことを宣言するのは、なんて気持ちのいいことだろう。確かに反発されるかもしれないが、心を偽るようなことはしたくない。
「何アイツ? 舞台鑑賞のお次は演劇ぃ?」
「矢島さん、ちょっとイタイ人見ちゃいましたねぇ」
「アイタタ、だな」
先ほども声に出して批判をした二人組だ。一人は矢島という少年で、肩がいかつく大柄である。もう一人は同級生に何故だか敬語を使う少年で、こちらは対照的にひょろっとしている。不良っぽさは感じられない。二人とも学ランの下に色のついたシャツを着ており、大柄のほうは紫、小柄のほうは黄色といった派手な色で、存在を主張しているようである。
「町田、お前も思うだろ?」
もう一人仲間がいるようだ。町田と呼ばれた少年は赤いシャツを下に着ており、体格は矢島と同じぐらいだろうか。
「ん? あぁ、そうだな。一人で頑張りゃいいさ。おっと、一人じゃ出来ないか演劇は」
その一言で三人は笑うが他の面々は、不良が同じクラスにいることに不安が隠せないのか黙り込む者やあわせて笑う者など、ぎこちない空気が流れた。
一機は腹立たしさも心に浮かんだが、それと同時に虚しさも浮かんでいた。夢を笑うものには自分に夢が無いから笑えるのだ。だから彼らには……。
悲しい目線を騒いでるほうに向けると、思いもかけないものを見た。三浦が眉を吊り上げて歯をむき出している。おい、待て。起こる体制じゃないか、それ? 怒るなよ? 気持ちは分かるが、抑えろ。
「ほら、静かにしろ。自己紹介はまだ始まったばかりだぞ。お前らも自分の言うことを用意しておけ」
担任が騒ぐ連中に対して注意すると、一応は治まった。一応は。不良たちはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべたままだ。三浦は……まだしかめっ面だが堪えたならよしとしよう。
席に着くと、後ろから小さな声で今井が囁きかけた。
「目標か、いいね。使わせてもらうよ」
ニコッと笑うと、間も無く名前を呼び出されて立ち上がる。
「じゃあ二番、今井」
「はい。今井爽太です。宮中学校出身です。趣味は旅行です。旅行といってもお金の掛からない所くらいしか行けませんが。一言何かを言わせてもらうと、この高校は部活動に掛ける時間は他校と比べて、多く取れると先輩方から聞いています。ですので、この高校の陸上部に入って全国大会を目指します。こんな自分ですが、どうかよろしくお願いします」
後ろや窓際や奥のほうを見渡し、一度会釈をして着席する。まるで用意したかの如くスラスラと簡潔に言葉を並べる同級生、今井に対しクラスメートの内、数名は「おぉ……」とため息をついたりしている。二番目なのに緊張している様子も無く、なんだか自分達とは違う大人のようだと思ったのは一機や三浦、不良たちも例外ではなかった。
「よし、次。三番、植田」
担任が呆けている生徒に指示をする。呼ばれた生徒はゆっくりと立ち上がり自己紹介を始める。
「なんか……、すごいな。お前は予想以上の男って気がするよ」
シンとした教室で再び自己紹介が再開される中、今度は一機が囁きかける。
「そう、かな? でも『一言』の部分は秋野の目標っていうのを聞かなければ、思いつかなかった。何もね。……ホントだよ?」
驚いた顔が伺われたのか、今井は確認を促すようにそう言った。

 その後も自己紹介は続き、大内の番になった。が、大内は寝ていた。一体こいつ、いつの間に、いやいつから? 隣で一機と今井が話していたのに、話に入ってこなかったのは、自己紹介の考え事でもしていたせいかと思われていたが。ただ単に寝ていたからとは、登校初日からどれだけ大物だよ。
「おい、……おい! 大内、お前の番だぞ」
寝息も立てずに器用に顔を上げたまま寝ている大内に、担任は顔の真ん前で呼びかける。
これに対し、ようやく起きた大内は、まだ寝ぼけ気味のようだ。隣から見る限り目が定まっていないことが分かる。
「大内、8番だな」
「……ふぁい」
「名前は?」
「……大内」
「下は」
「……武正」
「出身中学は?」
「……岩生小学校で育ちました」
「違う。中学だ。ランドセルを背負ってる頃を聞いた覚えはない」
「……あ、中学も岩生中学です」
「よし、趣味は?」
「…………」
「寝るな」
「…………あ、じゃあ、寝る、で」
「怒られたいのか」
「すいません。じゃあ徹夜で父と修行、いや柔道の練習で」
「…………。何か一言あるか」
「もうちょっと寝てもいいですか」
「お前後で職員室こい」
大内と担任のそんな漫才のようなやり取りを見て、教室がいくらか和む。さすがの今井もクスクスと声に出して笑っていた。

 余韻を残しながら、自己紹介はまだまだ続く。黄色のシャツを着た不良は中峰と言う名前らしい。席はちょうど真ん中らへんだ。ただ、町田と矢島の2人を合わせると魔のトライアングルが出来る。そのトライアングルの中でも三浦は町田のすぐ後ろだった。厄介なことになりそうだ。
一機のそんな嫌な予感はすぐに的中した。
「……増田照明、大山中学出身、趣味はインターネットです。みなさんよろしく」
町田の手前の少年が無難な紹介を終えた。
「増田の次は……、三十七番。町田、お前だ」
「へいへい、町田吉彦、平岡中学出身、趣味は喧嘩。特技は喧嘩。一言言わせてもらうとー……、嫌いなものは夢を叶えるんだ、とかほざく奴。演劇観に来てだなんていう奴みたいな、な」
「んっだと! てめぇ、そりゃ一機のことか!」
「おーい、てめぇも一緒か? 夢背負って頑張りますよってか? くせぇからやめろや。そういうのが嫌いでしゃあねぇんだ、俺は」
厄介なことが起きた。反論をしたのは当人一機ではなく、三浦のほうだった。今にも喧嘩が始まりそうな勢いで、町田に突っかかる。
それを見た矢島は、『おー、やっちゃえやっちゃえ』と挑発をする。止めろ止めろ。三浦は負けず嫌いだから乗っかりやすい。このままだと、確実にまずい。
「なーなー、まだ俺自己紹介してないんだけど」
 そんな一触即発のムードを壊したのは軽い声の少年で、三浦の後ろの席だった。
「まださー、あとひぃ、ふぅ、みぃ……、俺も入れて4人いるぜ? だからさ、そこらへんで勘弁頼むぜ? ぜ?」
一見、チャらい感じだが、どうやら不良グループとは違うようだ。
「まー俺も演劇はいいと思うし。夢持つのも嫌っていうのも両方わかったからさ。な? センセーからも。な?」
手を合わせる少年を見つめる町田と三浦。促された担任も一緒になって、手を合わしてしまっている。が、すぐ解いた。
「まぁ、初日だからまだ、な。分かり合えない部分もあるが、とりあえず今は、自己紹介の時間だ。喧嘩をする時間じゃあないし、目の前でやらせるつもりはない。お前らも大内と一緒に職員室、来るか?」
職員室、というキーワードを聞き、素直に席に着く二人。後ろの少年は、ニカッと嬉しそうな笑顔をこぼした。
大内は、また寝ていた。
「大内、……お前大丈夫か?」
担任が少しだけ心配をしたところで、また自己紹介は再開された。
「……三浦、智です。富士見川中学出身です。趣味は、スポーツゲームとかっす……。よろしく」
テンションガタ落ちの三浦はなかなか見れないが、それに反して先ほどまでの空気を感じさせない、高いテンションの少年の番になった。
「はい、39番、緑山純でぇっす! 出身中学はぁ、なんとぉ……、埼玉県の川鶴中学でーす! 埼玉だよ埼玉。驚くべきなかれ? 都会だよ? 趣味はー、なんでもかなー。オールマイティってやつ? あ、ちなみに女の子のことを紹介するなら俺のところへ! 受け止めてやるー! それでー……」
長かったので省略する。
「しく!」
テンションが高い奴は大概、クラスに一人や二人はいるが、今のクラス内の人間でそれを受け止めることが出来る人間は少なかった。みんな不安定なクラスに対してげんなりグッタリしていたのだ。不良たちまでグッタリしている。こういうタイプは極端なところまで行けば、いじめには遭わないのだろう。疲れるから。
その後、ぐったりとした矢島が自己紹介したりで、クラスの交流タイムはほどなくして終わった。

 授業用に配られた教科書や教材類を丁寧にカバンにしまう今井、それを習って入れようとするがうまくいかない一機、横で寝ている大内は職員室に連れて行かれた。両腕を担任の肩に乗せたその姿は宇宙人が連れて行かれるかを思わせるものだったが、改めて見ると大内のほうがでかいので、担任を後ろから襲っているようにも見える。
仕方がないので大内を置いて、三浦と今井の三人で帰ることにした。三浦は帰り道、朝とはうって変わってのろのろと自転車をこいだ。そして、大きなため息をついて、言い放った。
「あー、早く席替えしてぇ」
まだ、入ったばかりなんだが。
「あー、あー」
と変な声を出し続ける三浦。
これが毎日続くことを、一機は思いも知らなかった。

 

部活動説明会

 

 

 初めの週と、もう一週間は一機と今井が週番をすることになった。番号順なだけなのだが、三浦にとっては悲鳴を上げるようなことだった。
「番号順ってことは……、俺と町田? いやだぁああああああ!」
「がんばれ。お前のいいところを知っている。頑張るところだ」
「一機……、ってそんな簡単に!」
つっこむ余裕はあるようだ
「大丈夫だよ」
そんな三浦に優しく今井は語りかけた。
「2週間分だから」
「年間に2週間も!?」
今井にとっての2週間と三浦にとっての2週間はだいぶ感覚が違うようだ。まぁ、最初の回は、9月下旬頃だからその頃にはなんとかなってるだろう。
「三浦!」
「はいぃ」
「情けない声出すなよ……」
「だって」
「未来は、きっと、変わる」
「何かっこいい事言ってんだ!」
一機的には、素直に言ったつもりだが、三浦はそうは捉えていないようだった。まぁいいか。

 三浦のことはそれまでとし、今井と週番についてどうするか決めることにした。といっても日誌、黒板消し、購買用の集金をどうするかだけだ。購買用の集金は小さな箱に2時間目前までに、購買で何を買うかを書いた紙とお金を入れて持っていくのだ。そんなに難しいことじゃない。
「日誌と黒板消しは交代でやろう。集金はお互い気づいたら持っていく。忘れたら大変だからね。あと、何かあったっけ?」
「い、いや多分無い。にしても今井はテキパキしてるなー」
「そう? 普段から妹の世話してるからかな」
おや、意外なところで共通点が。今井にも妹がいたのか。
「今井にも妹がいるんだ? 俺もいるよ」
にしても妹の世話って、同じ妹持ちなのに何でこうも違うんだ。あれ? 俺はちゃんと妹の世話してたっけ? あれ? だから嫌われてる?
「けっこう歳離れてんの?」
何となく聞いてみた。一機は3つ下という近さだが、今井はどうなのだろう。
「小学4年だから……、6つ違いかな」
「そっか。俺ん所は3つ違いだわ」
なるほど歳が離れていれば、その分世話をすることも多い。そうだ、近いとそうでもないよな、うん。
一機は勝手に自己満足させながら、日誌の行事欄に目をやる。
「なぁ、今週と来週でなんかあったっけ?」
「えーと、来週の水曜日に部活動説明会があるね。午後だ」
部活動説明会。その言葉に一瞬ゾクリと背中に震えが走った。
「楽しみだなぁ。早くならないかな、水曜日」

 そして水曜日。
「来たぜこの日! 待ち遠しかったぜ」
そして午後。
「よし来た! ホイ来た! どうした!」
「お前がどうした」
三浦からまさか突っ込まれるとは。それ程、興奮していたのだろう。
高揚状態のまま説明会へと列を作る一年生。いや、別に高揚しているのは一機だけなのだが。会場は体育館ではなく、少し離れた道場だ。普段は剣道部や柔道部が稽古をしている。横には弓道場もある。
入る直前にそれまで履いていたサンダルは、手に持ったまま道場へ上がる。床を汚してはいけないことらしい。神聖な空気の場所にがやがやと男衆が集まる。体育館より狭いので、割とギュウギュウしている。
「それではこれより部活動説明会を始めます」
一年生が並び終えたのを確認した上級生が、開始の言葉を述べる。生徒達には部活動紹介の資料が手渡される。ペラペラとめくると各部の紹介が載っている。部名、担当顧問、活動場所、部長からの一言が書いてある。最後のページには校舎などの地図にそれぞれの部が、どこで活動しているのかわかりやすくMAPで載っている。
ただ、文化系の部活のいくつかが、ほぼ白紙状態なのが目に留まった。
やがてそれぞれの部長が、運動部、文化部の順で紹介が済み、同好会へと移った。しかし半分ほどの数を紹介しただけで終わってしまった。一機のお目当ては紹介されず。
うん? 演劇は?
教室へ戻りながら、もう一度資料を確認する。演劇同好会……、担当顧問・竹内(国語科)、活動場所・本校舎3階視聴覚室、部長からの一言・なし。
なし? どういうことだ。あまりにも手を抜いているではないか。言いたいことを言えない演劇部長なんて何も伝えられないぞ、と心の中で毒を吐く。
「一機、俺たち部活見学まわるけど、一緒に行くか?」
今井と大内を連れた三浦のその質問に、一機は強く首を振る。
「いいや、ごめん。行かなきゃ行けないんだ」
一機の見ていたページを覗き見する三浦。それを見て納得をしたようだ。
「んー、そういや演劇つってたな」
「演劇、なかなか簡単にできるものじゃないかもしれないけど、秋野ならきっとできるよ」
「え? 演劇? なーに?」
今井はわかっていたが、大内は寝ていたようで知らなかったのだった。
「大内、一機はな、演劇部を目指すんだ。わかったか」
「演劇部を目指す? 入るじゃなくて?」
「いや、そりゃもちろん入るけど、同好会だから……」
三浦の説明が下手なのか、大内がただ単に理解不足なのか、話がまとまらない。
「……えーい! 一機、もう行け! ラチがあかん」
「ああ、いってくる」
業を煮やして出発を促した三浦たちを背に、一機は黙々と目的地へと歩む。
手に持っていた資料の最後のMAPを見る。本校舎3階視聴覚室、訪れる先にはどれだけ腑抜けた先輩達が待ち構えているのだろう。
ビシッと言ってやる。

 

担当顧問・竹内の提案

 

 

 本校舎は教室棟の南に位置している。なので教室棟と本校舎を挟んだ形に裏庭が広がっている。上から覗くと植えられた草木で、校章に見えるようにできている。
3階からだと、教室棟は全て丸見えだ。おそらく3階の教室からも、本校舎は丸見えなのだろう。一機はまだ窓際に寄って、中から外を見てはいない。窓際は不良たちがいるのでわざわざ近づくのも危険だからだ。
本校舎3階の廊下を歩きながら、そんなことを思っていた。そしてとある教室の前で立ち止まる。
――視聴覚室。
札を確認する。間違いない、ここだ。扉はわずかにすりガラスがはめこんであり、中の様子をぼやけてはいるが感じ取ることができる。薄暗く、静かな雰囲気。いや、雰囲気と言うか静か過ぎる。
もしかして、まともに練習もしていないのか? そう思って、ノックをする。返事が無い。扉に手をかける。
……あれ? 開かない。もう一度ノック。響いたのは一機のコンコンといった、木材特有の乾いた音だけだった。
みんなサボり? いや、そんな。まさか。
その時、廊下の奥からコツコツとノック音とは違う、高い音が耳に入ってきた。歩いてくるのは女教師で、見た目から言えば30代後半から40代前半といった感じだろうか。
誰だろう? そう思った瞬間、言葉を出す前に相手が話しかけてきた。
「あら。もしかして、万が一、億が一、奇跡的にとは思っていたけれど」
そんな同じような意味を持った言葉を、次々と出した教師は一機の顔をまじまじと見つめる。
「あなた、部活動見学に来たの?」
「え、えぇと、はい。そんなところです」
唐突に質問されて、一機は慌てつつも答える。まさか、文句を言いに来たとは言えない。
「あぁ、やっぱり。でも残念ねぇ」
「残念?」
言葉の意味がちょっと分かりづらい。
「あの、もしかして今日は活動休みなんですか?」
こういう可能性もあるだろうと思って聞いてみた。
「いいえ」
違った。
「今、この演劇同好会は部員数0なの。だから今入ったとしても、一人だけになっちゃうのよ」
なんという驚愕の事実。つまり一機は大きな勘違いをしていたのだ。元々誰もいなければ、部活動の資料に載せるコメントも無く、壇上に上がるものもいない。サボりや休みではなく、ずうっと使われていない状態の教室。なんてことだ。開かなかった扉をむなしい思いで見る。
そんな一機を気の毒に思ったのか、優しげな声をかける。
「ちょっとここじゃなんだから、職員室にいらっしゃい」
言われて、重い足取りのまま一階にある職員室へ向かう。こんな何も無い部の何を話すというのだ。散々な歴史でも語ってくれるのか。
職員室に入ると、数名の教師がこちらに視線を向ける。一年生が入学早々何かやらかしたかと思われたか。まぁ大内がやらかしてるけどさ。
職員室の入り口には『入部届け用紙』が束になって、置いてあった。気乗りはしなくなってきたのだが、元々演劇部に入るためにこの学校に入学したのだ。とりあえず一枚もらっておくか、とカバンに押し込んだ。
先ほどの女教師が椅子に座って手招きをしている。
近寄ってみると、4つのデスクが固められたその場所の中央には、『国語科』といった札が立っていた。
「改めてはじめまして。演劇同好会の顧問、竹内です。よろしくお願いします」
うすうす感づいてはいたが、この教師はやはり顧問だったか。相手が礼をしたのであわせて一機も礼をする。
「よろしくお願いします。一年の秋野です」
もうよろしくしちゃったよ。入部という線をすでに踏んでいる気が。
「さて、何からお話しましょうか……。まず最後の部員が卒業してから3年目なんだけど、今年誰も入らなければ廃部になっちゃうの」
「廃部?」
なんというタイミングだろうか、これは入らざるを得ないのか。
「最後の部員っていうのは……」
「真山君って子でね、一人だったんだよ。その前の年も一人で危なかったらしいんだけど、真山君が入ってくれたおかげで存続できていたのよ」
一人で……? よくそんな状況でやれたなぁ。第一、裏方は誰がやるんだ。もしかして全部一人でって訳じゃないだろうな。
「あの……危なかったらしい、って何で『らしい』なんですか」
「演劇同好会の顧問はよくコロコロと替わっていてね。一人の先生がずうっと、っていうのは中々無いのよ。わたしは真山君が三年生の時に引き継いでそのまま」
「それじゃ、その前のことって分からないんですか?」
「うーん、そうねぇ……。それまでの先生達はもういないし……」
深く考え込む竹内。今の情報では、何一ついいものを得られていない。こんなモヤモヤした気分のままなんて、一機にとっては許せなかった。
「そうだ! その前の子は今はこの近くには住んでいないけど、真山君は卒業した後も地元で働いているって言ってたわ。連絡を取れば会えるかも」
閃いたことをすぐに実行に移そうと、電話を掛ける。電話は数秒でつながり、竹内は久々の演劇同好会員に、声を弾ませながらしばらく話した後、今現在新入生が来ていること、部活について詳しく話が聞けないかを伝えると、すぐさま笑顔になった。どうやらOKは出たようだ。電話が切れると、揚々とした声のまま一機に話した。
「今度の日曜日の午前中、会えるって」
「え、えぇと何処でですか?」
突然の展開に翻弄されつつも、反応する。
「学校近くの河原があるでしょう。あそこで待ち合わせね」
言われて思い出す。初日は三浦と爆走していたので目にも留めていなかったが、その後は綺麗で大きな存在感のある川と、その脇の広い河原に見とれる時もある。
「あの、誰が会うんでしょう?」
「それはもちろん、秋野君、だっけ? あなたよ」
……なんだか流されるがままに、決定してしまった。まぁいいけど。
「……わかりました。俺もそんな一人で頑張ってきた人に、会ってみたいです。どんな人なのか、どんな部活動を送っていたのか、気になりますからね。ありがとうございました」
こうして秋野一機はOB真山に会うことになった。
果たしてその出会いは功を奏するか、はたまた……?
モノローグまで不安である。

 

若人よ、夢を持ち、前へ進め

 

 

 そうして日曜の午前9時。待ち合わせより30分早くに来てしまった。おそるべし秋野一機。
いつも通学路として使っている橋を渡り、桜の木が並ぶ坂を下りてわき道にそれる。そこが河原の入り口となる。一機はそこを先ほどからチラチラと視線を送っている。
しかし待ち合わせ予定時刻より随分早いため、そんな簡単に姿を現すこともない。正直傍から見ると怪しいこと極まりない。河原で朝っぱらから学生が一人で、なんと寂しい光景か。
一機は視線を河原へと移すことにした。河原は思いのほか広く、芝生が綺麗に青々と輝いている。ここで寝たらさぞ気分がいいことだろう。少し先を行くと、コンクリート塗装された道があり、ランニングする者のためのコースが出来上がっている。実際に今も年配の方々やペットと共に散歩をしている若い女性がちらりほらり。そしてその方々にちらりと見られる。いけない、怪しく見られた。ちょっと戻ろう。
川面は晴天に恵まれたおかげで、キラキラと光を放っている。こんなに綺麗な場所があったことに今まで気づかなかった。あの高校に通っていなかったら、こんな場所ずうっと知らなかったんだろうなぁと、しみじみ思った。
普段は運動部が走り込みなどの練習で使っているみたいだけど、もし演劇で使うとしたら発声の練習とかかな……などと考え込んでいると、不意に後ろに気配を感じた。振り返ってみると、眼鏡をかけた優しそうな目つきの、一機よりかは少し年上の青年が立っていた。
「君、もしかして秋野君かい?」
「あ……はい。秋野一機です」
「そうか、なら当たりだな。俺は真山渉。竹内先生から紹介があって来たよ。はじめまして」
「は、はじめまして」
その男はOBの真山であった。睨みを利かせる不良でも、おちゃらけた軽い男でもなく、おだやかで真面目そうな印象を持つ。
二人は芝生にそのまま座ることにした。
この人が最後の演劇同好会員か、と一機がしげしげと見つめると真山はくすりと笑った。
「イメージと違ったかな?」
「いえ、その、最後の人だって聞いてたから、凄く気になって」
「うーん、確かにそうだね……」
そう言うと目を閉じて、何かを思い出している様子。この人がいた最後の一年というのは、本当に一人ぼっちだったはず。そのことを考えると、自分まで寂しい気持ちになった。何故、そこまで頑張れたのだろう。意地だろうか。体裁だろうか。一機の周りはいつも友達がいた。一人というのは考えが思いつかない。
「あの、どうして一人でやれたんですか?」
「うん?」
声をかけられて真山は目を開ける。
「そうだなぁ……。単純に演劇が好きだったからだよ」
「好き?」
「そう。恥ずかしい言葉を使えば、部活が恋人ってやつだ」
恥ずかしい、と言いながら顔は全然恥ずかしそうじゃない。むしろ清々しい顔つきだ。
「最初はそうでも無かったんだよ。演劇なんて、どうせ『ロミオ〜』『ジュリエット〜』なんて言ってるようなやつだろうな、ってぐらいにしか思っていなかった」
「そうだったんですか?」
「ああ。でもある日、各地区でのいわゆる交流大会みたいなものがあってね。スポーツで言えば練習試合だ。大会といっても賞も何もない。お互いの実力を見せあう場。それが自宅近くでやることを聞いて、ふと行ってみようと思ったんだ。無料だったし、何より自分の高校が出ていると気になるだろう? ほら、野球の甲子園とか……。あぁ、まだそこまで経験してないかな?」
こくりとうなずく。静かに聞いている一機に対して、真山は徐々に熱を灯しているようだった。声には幾分か力がこもっている。
「一番最初が勝木工業だった。それだけ観て帰ろうかと思ってた。だけど、高校演劇の雰囲気が凄く気に入ったんだ。そのまま全校観続けて、次の日には入部届けを提出。簡単にのめりこんじゃったよ。今思えば若いからかなというのもあるけど、それだけ高校演劇には魅力がある。俺はそう断言できるよ」
 真山は目前の大河を見据えて、はっきりとそう言い放った。その見つめる瞳には、確かに輝きが見えた。
きっと、部活で得た3年間の生活は充実していたのだろう。言葉を聞くだけでそれが伺える。
一機もそんな真山の調子に感化され、心の底から沸々と込み上げてくるのを感じた。そうか、この先輩と自分は似たような経験をしているんだ。劇場に足を運び、自分の目で、体全体で感じて。その衝撃と感動を味わったんだ。
「あのっ、先輩が入った頃は何人ぐらいいたんですかっ?」
こちらも興奮して声が上ずってしまった。
「んー、そうだな。俺は入れないで……6人、かな。その前はもっといたみたいだけど、年を重ねる毎に少なくなっちゃってね」
「そうなんですか……」
「俺の一つ上の学年も一人だったんだ。サクラさん、元気にしてるかなぁ」
「サクラさん?」
名前が挙がった人物を思い浮かべる。女子……。そういえば勝木工業高校は共学だったっけ。今は男ばかりで、男子校状態になってしまっているが、そんな時代もあったのだなと思いにふける。
「そう、サクラさん。最近は会ってないけど、東京で演劇活動してるとか言ってたな」
「へぇ、すごいんですね」
「あぁ、そりゃあもう。もし、俺が部に入らなかったとしても、あの人は一人でも活動していたってぐらいさ。それを知って俺も、一人でもやっていこうって決めたんだ。まぁ結局、そのまま終わりになっちゃったけど」
サクラという人物の話になると、まるで自分のことかのように自慢する。きっとその人のことが、想い人なのだろう。一機はその人とどうなったか気になったが、大人に対して失礼なことだと思って聞くのをやめた。
「サクラさんが卒業してからは一人になりましたけど、裏方はどうしたんですか?」
「裏方は先生達に協力してもらったよ。顧問、副顧問の両方にね」
「副顧問? 二人もいたんですか?」
「あれ? まさか今は顧問だけなのか……。そろそろ危なくなってきたな……」
「顧問の先生って結構技術とか知識があるから、裏方ができるんですか?」
一機の質問に被りを振り、答える真山。
「いいや。簡単な“地明かり”と“大黒”を使えば何も心配要らないし、音響だって何もBGMも無い劇だってOKだ」
「じあかり? おおぐろ?」
「おっとごめんよ。今のは専門用語。まぁ講習会で聞けるだろう。そうだ、年間の予定を教えよう」
疑問点は増えるが、まずは聞こう。
「とりあえず6月中旬に最初の発表会がある。これはいわゆる夏フェスだ。俺が演劇を観に行ったのもこの時なんだ」
「6月、ですか……」
「まぁ新人戦だと思えば良い。この勝工は勝木地区に入っていて、強豪校の一つ『勝木高校』もある」
「演劇にも強豪校なんてあるんですか!?」
「あるよ。顧問が長く務めて上手かったり、備品が整っていたりで大きな差ができる」
「うちは……?」
「うーん、残念ながらここ数年は顧問が入れ替わってばかりのようだからなぁ。あ、でも道具はあるんだ、少しだけど。場所が散らばっていて分かりづらいけど。えっと……視聴覚室の隣の部屋、屋上に続く階段の先、生徒会室、職員室のロッカーの上……」
「何でそんなに。にしても生徒会室って……」
「何故かウチの演劇同好会は、生徒会と関わりが深くてね。いつも生徒会の人間が、一人ぐらいは部員だったりするんだ。かくいう俺も会計で入ってた。その関係で生徒会室にも荷物を置かせてもらうことができたんだ。今はどうなんだろう?」
「へぇ」
校舎内に散らばった備品、か。後で調べてみよう。もし何か一つでも見つければ、活動の手助けになるかもしれない。
「話を戻そう。夏フェスが終わったら、7月末に年4回の講習会の1回目と2回目がある」
「講習会?」
「これは4回分で500円払えば受けることが出来るから、安いもんだよ。1回目は演技指導、これで多少は腕がつく。2回目は照明・音響指導。これはさっき言った専門用語と使い方を知ることができる。なに、簡単に考えてくれ。資料も出される」
「はぁ」
あまりの情報の多さに幾分か着いていけず、力のこもっていない返事をした。
「次に8月。初めの頃に文化部のインターハイと呼ばれる全国高等学校文化祭があるけど、そっちは今すぐ知らなくても大丈夫。中旬にビッグイベントがある。そちらを気にしてくれ」
「びっぐ、いべんとですか」
「ああ。県内の演劇部が集まって、混合合宿をするんだ。男女でね」
「だ・ん・じょ?」
「そりゃあ演劇は男だけ、女だけとは限らないだろう? その合宿で演技指導はもちろんのこと、異性との距離を縮めるのを図ることができる」
「それは……なかなか……いいですね」
思わず本音が飛び出てしまった。真山は楽しそうに話すが、自身はどうだったのだろう。
「へぇ」
先輩は女子と交流しまくりました? と聞こうとするがやめる。想うひとがいるのだろうから、わざわざそういうことを聞くのは失礼だ。
「まぁ後のお楽しみと言うことで。そして何より本番、地区ブロックの大会が10月末にある。中間試験と時期が重なるけどそこは上手いことやってな」
「その地区大会で上がると、県大会ですか?」
「そう、察しがいいね。11月中旬に県央であるんだけど、こっちは文化祭と被りやすいんだよねぇ」
「えっ。それじゃあ……」
「上手いことずれてくれると助かるんだけどさ」
秋の予定は割と厳しそうだ。行事と大会がことごとく重なるというケースが多いのは、思ってもみなかった。
「12月の初旬に講習会の3回目がある。そこでは県大会で優秀な高校を、モデル校として舞台装置の指導が受けられる」
「なるほど」
「で、一気に飛んで2月の頭ぐらいかな。講習会の3回目がようやく来る」
「一度受けたら、全部受けなきゃダメですか?」
「いやぁ、そんなことはない。行くかどうかは自分しだい。3回目なんて平日だしね。4回目ではその時そのときで違うかな。メイク指導なんてのもあったっけ」
「一年間にいろんなことがあるんですねぇ」
「まだ終わりじゃあないぞ。最後は3月末に春フェスがある。これは今までのよりも自由度が高い。高校同士のコラボレーションなんてのもできる」
「す、すごいですね」
「まぁ最後だしな。卒業生も出演したり、何かと思い出作りができると思うよ」
様々なイベントの数々に圧倒される。その多さにもそうだが、それを一人でやってきた目の前の真山にも驚きだ。自分は何を踏みとどまろうとしていたのだろう。悩む必要なんてない。やりたいと思ったことに『無理』だなんて歯止めをかけて、それで終わらせようとしていたなんて。危ない、うっかり熱を冷ますところだった。
「あ、ごめんな。いっぺんに教えちゃって。後でちゃんと説明するよ」
真山はそう言って、携帯電話のメールアドレスを教えた。
「先輩、俺、やります……。やってみせます。どんな困難があろうとも、一人だろうとも、それでも諦めないでやり遂げてみせます」
一機が気合のこもった目つきで真山に対して言うと、真山はふっと嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。俺もこんな後輩ができて、すっごく嬉しいよ。そうだ、最後にアドバイスをしよう。視聴覚室の隣の部屋に小道具や、練習で使ったノート、劇を撮影したテープなどがある。それをまずは役立てるといい」
「視聴覚室の隣の部屋って、開いてるんですか?」
「鍵は先生に言えばもらえるよ。あそこは映像部の部室だから」
「へぇ、映像部……」
確か本校舎は文化部が集まっている場所だ。映像部と演劇同好会がくっついていてもおかしくはない。
「それじゃあ、そろそろ……」
それまで温かな芝生に降ろしていた腰を上げ、来た方へ向き直り歩き出す真山。
「あのっ」
その後姿に声をかける。
「ありがとうございました! 先輩達の気持ち、俺が受け継ぎます!」
 その日一番の大きな声で感謝の気持ちを述べた。真山は振り返り、こちらもその日一番の良い笑顔で叫んだ。

「若人よ、夢を持ち、前へ進め!」

恥ずかしいフレーズを、全然恥ずかしそうにしないで言葉にする真山に、一機はただただ頭を下げる。真山が去った後もしばらくはその姿勢で。

 

 家に帰り、一機は一目散に母親の元へ走る。手には一枚の紙が握られている。母を見つけると、一も二も無く一言告げる。
「お母さん! ハンコだ! ハンコ!」
「ハンコぉ? 何に使うのよ」
いきなり息子にハンコを強要されて、聞き返す。まぁそれは当然の反応だ。
「これにハンコが必要なんだよぉ!」
一機は握っていた紙切れを母に見せ付ける。それを見た母は納得したように、うなずく。
「カズくん、やっぱり決めたんだねぇ」
先ほどまでカバンの隅で、くしゃくしゃになっていた紙は、一機の手によって広げられてハンコが欲しいとばかりに主張をしている。
その紙には、走り書きのような字でこう書かれてある。

 

部活動入部届
氏名:秋野 一機
部活動名:演劇同好会

 

熱血少年

 

 

 入部届けを月曜に提出した一機は、顧問竹内から活動日を聞かされた。活動日は水曜日と金曜日の週2回。
一機としては毎日やりたいぐらいなのだが、同好会として活動しているので、視聴覚室を毎日貸すのはできないそうだ。ただし、発表日の2週間前からなら毎日行っても良いらしい。ちなみに視聴覚室は、『部室』ではない。実際はほんの少し貸してもらっている部屋というだけだ。なので部屋の中に演劇で使う道具を置くことも出来ない。
ではどこか。それは様々な場所に散らばっている。例えば職員室の先生達のロッカーの上とか、机の下とか。例えば生徒会室の物置き場とか、屋上へと続く階段の踊り場とか。ってなんでそんなにだよ。
まぁ、手始めに真山から聞かされた、視聴覚室の隣の部屋というのを開けよう。……水曜まで待とう。

 で水曜。
竹内に事情を話し、鍵を貸してもらうことに成功した。聞く所によると、竹内は映像部の顧問でもあるらしい。顧問の掛け持ちって、どんだけ演劇同好会の分軽いんですか。
いやそんなことは置いとこう。とりあえず鍵を持って3階へ上がる。端から沿って廊下を歩くと、前の時は気づかなかった小さな看板が目に入った。『視聴覚準備室』
視聴覚室より西手前の部屋で、他の教室とは明らかに小さく、扉も違う。
扉には錠が付いていた。早速開けようとしたが、鍵が何故か合わない。2、3分ガチャガチャと音を立てながらいじっていると、他の部活動の面々が怪しげな目でこちらを見ている。
まずい。俺いま怪しいな。そう思った一機は仕方がないので、視聴覚室のほうに逃げることにした。
扉の前に立って長細い鍵を扉の穴に入れると、カチャリという小気味良い音が聞こえた。こちらの扉は簡単に開いた。
とりあえず入って、隣の部屋を開ける方法を考えようとした。
中を開けると、独特のくさい臭いが充満している。見れば床にはあちこちにほこりやら、紙くず、虫の亡がらやらが転がっている。慌てて窓を開けた。くさい。
そういえば竹内が言っていた気もする。この部屋は掃除担当区域には入っていないと。
ということは、長い間このままの状態で使われていたということか。使うといっても、3年生の選択授業で年に数回らしいが。
まずは掃除から始めた方がよさそうだ。そう思いながら、左端から窓を順に開けていく。開け放たれた窓から空気が入れ替わっていく。うん、心地よい。
右端の窓を開けようとした時、何かに気づいた。すぐ横にはがある。
扉……? この隣は視聴覚準備室のはず。見ると壁の上側には四角い穴が二つある。小さい人間なら通れそうなぐらいの大きさだ。おそらく映写機か何かを使うための穴だろう。反対側にはローラー巻きのスクリーンがある。左右にテレビ台がどしりと構えている
やはり隣は視聴覚準備室だ。扉は引き戸ではなくノブつきのタイプである。見ると、ノブには鍵穴がある。
もしやと思い、先ほど入らなかった鍵を差し込む。

 グサリ、ガチャン。

 渋い音はしたものの、この鍵で合っているようだ。ノブは音を立てて開いた。
中を覗くと、薄暗く目を凝らさないと良く見えない。すぐ傍にカーテンが閉まっていたので、勢いよくそれを開けると光が差し込んだ。光に当たり埃がチラチラと舞っているのがわかる。
広さで言えば畳4畳分ぐらいだろうか。長細い部屋には物が所狭しと置かれている。大きな三脚のついたビデオカメラ。机の上にはパソコンやモニターなど。壁際にはずらりとビデオテープの入っている棚が並んでいる。さらに、フィルムを涼しい場所で保管する部屋なのか、保管庫なるものが四分の一ぐらいスペースを取っている。
おそらくカーテンがしてあったのは、テープなどが日焼けしないように防ぐためだろう。
……にしても、この部屋も視聴覚室とは違った独特の臭いがしている。薬品のようなはなをツンとつく臭い。このせいもあって隣にまで臭いが加わってしまったのだろう。
ここは本来、演劇では使わない部屋のはずなのに、真山はここに演劇で使った道具やテープがあると言う。本当にあるのだろうか。
狭い部屋を少し探すと、パソコンの置いてある机の裏側の隙間に、ちゃぶ台らしきものが置いてある。丸い板と足だけの簡単な造りだ。しかし、あまり動かしていないのか状態は良い。
次に机の引き出しを、悪いと思いながらも開けてみた。引き出しは壊れているのか、途中で止まった。中には映像部の資料に混じって、『演劇ノート』と書かれた青いノートが出てきた。
ぺらりとめくると、練習方法や、それぞれの役割によっての鍛え方、近くの高校のデータ、その他もろもろがびっしりと書かれている。全部を読むには時間が掛かりそうだ。後で持ち帰って読もう。
バッグの中に詰め込み、一番の目当てである演劇用のテープを探した。棚に並んでいるテープを端から探し始めた。しかし、中々見つからない。本当にあるのか? 第一ここは映像部の部室だろう。そんな場所に置いてあるわけ……。

 …………!!

 そうか……! 一機はあることに気づいた。あるわけないのだ、棚になど。先ほど置かれていたちゃぶ台は、まるで遠慮深そうに隅に立掛けられていた。演劇ノートにしてもそうだ。映像部の資料の何枚か下の方に入っていた。
そう、ここは映像部の部室だ。演劇同好会には部室がない。立場上、同好会という下の位置だ。置いてあると言うよりも、置かせてもらっているが正しいだろう。
ということは、大っぴらな場所以外ではさっきの引き出しを探るべきだ。半分だけ開いた引き出しに手を突っ込む。手に何か当たる感じがした。さっと掴み、それを取り出すと、やはりそうだ。『平成19年度 演劇春フェス』と書かれている。この年だと、真山の最後の演劇が映っているのか。
他に同じようなテープは見つからない。これだけのようだ。
手に入れたはいいものの、これをどうやって観るんだ? 一機は8ミリテープの観方は良く知らない。仕方がないので、竹内に聞くことにして、職員室にまた戻った。
しかし、こんな分かりにくい所にあるとは……。真山も一言添えてくれればいいのに。……何か意味があるのだろうか。 映像部を知ること? 親交を深めること? まぁ、置かせてもらっている側なので、そういうのは必要だとは思うが。あんな宝探しのようなこと。

 職員室にて、竹内にテープを見つけたことを話すと、思わぬ答えが返って来た。
「あら、そういえばこれも同じかしら」
そう言って職員用ロッカーの上から紙袋を取り、その中から同じようなテープを5,6個出した。
確かにそこには演劇の道具などが置いてあるとは聞いていたが、まさかテープまであるとは。さっきまでの捜索は一体。
「これを観るためには、ビデオカメラが必要なのよね。それと映像部からコードも借りなきゃいけないのよ」
なるほど。映像部に親しくなるのは、そういうやり取りも含めてなのか。
テープを映すために、竹内にも視聴覚室へ来てもらうことにした。
歩きながら、気になっていたことを聞いてみた。
「あのぅ、今日って映像部の活動は無いんですか?」
そう、こうやって部活の活動時間なのにも関わらず、まだ映像部員に出くわしていないのだ。最も出くわした所で、気まずい状況が生まれることは間違いないのだが。
「映像部は火曜日と木曜日なの。だから出会うことはまず少ないのよね。ちなみに部員も3年一人と2年一人だけだから」
「え、映像部もそんなに少ないんですか!」
なんという少部員化(とっさに思いついた)。この学校ときたら部活に励まなさすぎだ。
道理でごちゃごちゃと汚いわけだ。どうせ週2回では掃除もロクにできていないのだろう。
そんなことを頭に思い浮かべながら、視聴覚室へと着いた。早速竹内が隣の部屋へと入り、しばらくするとビデオカメラと長いコードを持って出てきた。
「そういえば、どうして廊下側の鍵じゃなくて、そっちの鍵なんですか?」
「あぁ、これは演劇用って決まってるのよ。廊下からは部員意外は入っちゃいけない決まりなの」
「そうなんですか」
何だその決まり。どうでもいいわっ。いやそんなこと考えてはいかん。一応年上だからな映像部。
ローラー巻きのスクリーンを引き伸ばし、横に置いてあるテレビ台に付いている機器にコードを使ってビデオカメラと繋いでいく。
その作業をしばらく見ていたが、一度では覚えられそうにもない。今は無理だが、後で出来るようにしておこう。
竹内がリモコンを手に取り、天井に備え付けられた機器に発信する。すると、スクリーンが青くなり、ビデオカメラのままの映像が出た。何度かボタンを押すと、再生モードへ替わった。
映し出された画面には、舞台上で一人寝ている男がいる。客席の奥から撮っているのか、映像では小さく感じる。
男はむくりと起き上がり、周囲を見渡す。
『おうい、誰か!』
 やはり真山だったな。声を聞けばすぐにわかった。
先ほどのテープだろうから、一人芝居と言うことだ。テープの箱を探して、手に取り裏返す。そこには劇のタイトルだろうか、こう書かれてある。

【ひとりぼっち】

 いや、劇のタイトルであってくれ。何だか切なくなってくる。
『誰かいないのか!』
 誰もいねぇんだよなぁ、寂しいよなぁ。
一機にその気持ちが痛いほど伝わる。劇中の演技も真に迫っている感じがする。
その後、劇は当てもなくさまよう真山演じる記憶が欠落した青年が、とある病院へと辿り着く。そこには医師も客も見当たらず、ただただ、ベッドの上で白い布が顔にかぶせられた人間だけがいるという、世界の終わりの物語だった。
結末は、何故世界が滅んだのかというと、自分が数日前に行ったことでそうなったという。元凶が自分にあった事に対して、苦悩する青年を真山が好演している。
観終わった後、内なる何かがざわめいていた。自分もまずは一人でやらなければならない気がする。部員がそう簡単に集まる当てはない。三浦も今井も大内も別の部活だ。
だからといって、弱きにはなっていない。
これから始まる試練を楽しむぐらいの気持ちだ。
「どうしたの? 秋野君?」
「え? あぁいや、張り切ってるんです。これを自分でやるんだ。先輩がやった以上のものをつくろうって」
「そうなの。頑張ってもらえるようで何よりだわ」
残りのテープをざっと見る。大体、真山の最後の年のものが多いな。あとは……随分古いのもある。参考資料は充分にある。
「テープはこれで全てですか?」
「そうねぇ。みんな各自で持っていっちゃうから。記念としてね。あ、でも真山君は何でか残していったわねぇ」
おそらく、新入部員を期待して残していったのだろう。可能性は薄くとも。
思ったとおり入って、真山も嬉しいことだ。
一機はそんな先輩の気持ちを汲み取り、歩き出す。
掃除用具入れに。
「秋野君? 何するつもり?」
あまり綺麗でない空気をすぅっと吸い込み、発声した。
「まずは掃除でしょう!!」
それから日が暮れるまで、掃除をした。あの汚かった部屋は跡形もなくなっていた。

 

 

 

生徒総会

 

 

 そういえばその日の5,6時間目、生徒総会なるものが開かれていた。春休みの間、部活動で成績を挙げた2,3年生が表彰されたり、特別に市から表彰を受けている者もいた。特別にって? さぁ? そんなことより、一機にとっては放課後の部室に初めていくことで頭がいっぱいだった。
うずうずした気持ちで体育座りしながら、生徒総会が終わるのを待ち望んでいた。
もう、早く真山の言っていた資料を確認したかったのだ。
そんな中、生徒会役員が今年度の予算案などについて、話し始めた。
手渡されていた紙の束をぺらりとめくる。予算案の数字がずらりと並んでいる。
「これを承認しない人は挙手をお願いします」
誰も挙手をしない。みんな面倒くさいのだろう。
「では続いて、部活動報告に参ります。部活動名の変更が一件。同好会から部活動への昇格が一件あります」
部活動名の変更? なんだそれは?
後者の昇格の件も気になるが、変更とは何ぞや?
「変更したい部活動はギター部です。ギター部は元々ギターが好きな人たちが集まって演奏を発表しあう部活動でしたが、現在ではドラムやベース、キーボードなどが入り、ギターだけでは無くなりました。そのためギター部という名称から、軽音楽ぶに変更したいとのことです。以上の件につきまして、何か意見のある方はおりますでしょうか。いましたら挙手をお願いします」
またも誰も手を上げない。
「では承認とみなします」
あっさり決定。何だこの総会。
しかし、変更するのも申請するんだな。確か申請はその前の年度の2月末までに出さなきゃいけないとか。
「続いて昇格の件です。部活動はアニメーション同好会です」
アニメーション? すごいな理系の高校。
「アニメーション同好会は会員数が規定の10名を越え、会員以外の署名が30名を越えていますので、部活動に昇格可能となっております。何か今の件につきまして意見がある方はおりましたら、挙手をお願いします」
またいない。
「では承認とみなします」
にしてもすごいな。アニメーションで10人越えてるのかよ。すごいな理系の高校。
署名も30名越え? まぁ各部員の友達みんなに協力してもらったら、いくか。いやでもすごいぞ理系の高校。
俺も頑張らなきゃ。同好会を部にさせる目標があるんだからな。
まず10人越えか。今すぐは集まらないだろう。今の自分には技術も実力も無い。何より他の生徒にアピールもできない。最終的には20人近くは欲しい所だが、来年の2月末までに10人集まればよしとしよう。
それぐらいいれば、署名も楽だろう。
よし、まずは6月の夏フェス、講習会と8月の合宿で力を身につけて、2学期になってから人集めはしよう。
 待ってろよ、まだ見ぬ仲間達!
体育座りのまま、少年は握りこぶしを作っていた。はたから見ると、トイレ行きたいのをこらえている姿である。

 

 
 

演劇同好会の歴史

 

 

 夏フェスに向けて準備をしなければならない。
しかし、準備の前にやるべきことがある。
それは……、この演劇同好会の過去を知ること。
その時の同好会がどういう扱いだったか等だ。
そのために、在学中の上級生が知っているかどうかなのだが、考えてみたらダメだった。最後の部員真山が在籍していた頃の生徒はもうこの学校にはいないからだ。
できれば、第三者からの意見が聞きたかったのだが、仕方がない。顧問の竹内に聞こう。一年だけでも担当していたのだから、もっと情報があってもいいはずだ。

 

「ごめんね。担当してたけど。あんまり手伝ってなくて……本番のときにちょっと裏方やったぐらいしか」
ソンナ、バカナ。
直接真山に聞くのは失礼だと思って他の人に当たっているのに。
「でも」
ん? でも?
「うちのクラスの子で、兄弟がその頃在籍してた子が二人ぐらいいるから聞いてみる?」
おぉっ。なんという運。
「是非っ」

 

 で、その二人に会い、話をすることになった。
放課後、場所は3年の1階廊下。
「俺は柴崎。兄貴が確か……最後の演劇部員と同級生だったかな」
「オレは林。兄ちゃん、その最後の人の1個下だった気がするよ」
「ありがとうございます。それで、いきなりですが、お兄さん方は当時の演劇同好会に対して、どのような印象を持っていたか分かります?」
気にしてなければ、話は出てこないが。
「あー……、そうだな。兄貴は、その、毛嫌い……してたな」
言いづらそうに言葉を吐いていく。
「確かに確かに。うちの兄ちゃんもウザがってたわ。あ、ごめん」
「いえ、謝らないでください。ただ、知りたいんです。昔のこと」
「うーん、同好会のくせに、出しゃばりやがってとか。演劇なんてーとか言ってたわー」
「そうですか……」
「すまないね。落ち込ませたみたいで」
「いえっ、そんなことないです」
「……頑張りなな?」
訛り混じりで、先輩たちはそうつぶやいて別れた。
一人残された後、思い浮かべたのは自己紹介のときの、不良たちの言葉。
数々の毒が、今頃になって胸を蝕む。
演劇同好会が周りからどう思われていたかを知れば、どうなるかぐらいは予想がついていた。
それでも一機は投げ出そうとはしない。
 ――俺が、過去を塗り変えてやる!
そう決意をして、家に帰る。
家に着くや否や、早速あの『演劇ノート』を取り出した。
次は、これからのためだ。
このノートにもいくつか情報は書いてあるだろう。それを活用する。
まず開いたページには、こんな風に書いてある。

『いたらいいなリスト
★坊主頭 ★強面 ★外国人 ★長身 ★双子、三つ子……
★太めの ★女子 ★小さめの ★声高めの ★声低めの
★人間変声器 ★記憶力の高い者 ★パントマイム ★ジャグラー ★殺陣師
★歌上手 ★ダンスリーダー ★照明 ★音響 ★脚本家
★小道具 ★大道具 メイク(フェイス&ヘアー) ★衣装』

 とまぁ、こんな風に書き連ねてあるが、こんなに大勢集めようとしたのだろうか。
しかし、実際は集まらなかった。その辛さは感じている。
 だからこそだ。
自分はOBの分も頑張らなくてはならない。期待はもう充分に引き受けた。
力をつけたら必ず集めますよ。先輩!
演劇ノートを握る手に力が入る。ぺらりとめくると、今度は役者や裏方などについて鍛え方が書いてある。
ただ、……意味が良くわからないものもある。

 『
・役者は常に人に見られていることを意識しろ
・役者、衣装、メイクはテレビをよく見ろ
・音響はドラマを見ろ
・照明・脚本は本を読め、散歩をしろ
・小道具は外食しろ
・大道具は触れ』

 何だ、この散歩をしろって? 散歩で何を得るんだ?
もし、これに深い意図があったとしても、今はその役職がいないのでわからない。
もっと先に使うページだな、ということでまためくる。
今度のページに書かれていたのは、他の高校のデータだった。


勝木高校
勝木地区、成績は県大会進出多し。平成18年度全国演劇大会にて準優勝を果たす。
得意ジャンルはシリアス・現代・時代・学園など多彩である。
女装も老人役も出来る高校。

 勝木女子高校
勝木地区、成績は前述の勝木高校に比べては目立たないが、いくつか賞を獲得している。
得意ジャンルはファンタジー・歌劇など女子高ならではの演出技法が光る劇が多い。
男役・子ども役は必ずと言っていいほど登場。

 椿ヶ丘高校
勝木地区、成績はあまり奮われないが、古株の高校である。
得意ジャンルは特になし。ジャンルにとらわれることなく、他校とは被らない劇を展開。
少人数の高校ではあるが、時間を短縮した劇などで密度の濃さが定評。

 大山北高校
勝木地区、成績としては勝木地区の2、3番手といった実力者ぞろい。
得意ジャンルは学園・コメディ・ファンタジーなど。脚本を丁寧に読み取るのが上手い。
女子が多く、それぞれのキャラを生かした笑いをとる。

 鎌奥(かまおう)高校
二益(ふたます)地区だが、秋大では合同で行う。成績は会う機会が少ないが、良い方。
得意ジャンルはSF・コメデイ・シリアス・現代などで、創作脚本で挑むことが多い。
メリハリのついた劇で、観客を飽きさせないような工夫を施している。

 上等院高校
宮地区、成績はすこぶる高い。全国大会にも何度か行っており、賞も多く獲得している。
得意ジャンルはコメディ・現代・家族・青春が基本だが、その他も万遍なく得意である。
舞台装置が圧巻の一言であり、ワイヤーなど私立らしく豪華な演出も見事である。
部員数が50人を越える大所帯で、選抜したり、全員が出たりと幅広い。

 赤星高校
宮地区、成績は上等院高校に次ぐ高さ。
得意ジャンルは青春・現代・恋愛といった高校生らしいもので、ストレートに演ずる。
共学なので、バリエーション豊かな劇で攻めてくる。

 朝里(あさり)高校
朝里地区、県出場を何度も果たしている。原作ありきの脚本を使うが、アレンジが上手い。
得意ジャンルはコメディ・現代が多いが、飽きの来ない笑いを追及している。
共学であり、男女ともに体を張った笑いをとる。』

 ここまで挙げてみたものの、まだ実はある。ただ、全部を読んでも覚えられないと判断し、一旦読むのを中断した。
ここまで読む限りでは、一番は上等院高校だな。ただ、出会うのは県大会出場を果たさなければいけない。そこまで行けるかどうか。
ちなみに、勝木工業自身はなんて書いてあるかというと、

『勝木工業高校
勝木地区、成績はあまりよろしくない。
得意ジャンルは冒険・コメディ・現代・青春などいろいろ挑戦してみるが、どれも……。
評価として挙げるのならば、部員数と部費が少ないので、ちゃちっぽい。』

 ……金、か。演劇同好会は一体どれくらい部費をもらっているのだろうか。まぁ少ないといっても、一万円はあるだろう。……あるよな?
無ければ自腹を切るしかないが、やむを得ない。
さてと、次の項目へ移ろう。
次は……、練習方法か。

『練習方法
エチュード
即興劇である。

 キャッチボール会話
キャッチボールしながら会話をする。ボールを渡された者は絶対に会話をしなければならない。

 音劇
音楽に合わせて、歌詞に沿ったり曲調に合わせた劇を即興で作る。

 曲本
曲に合わせて脚本を書く。例えば、将来に向かって進む曲では、自転車で旅をして必死にゴールを目指す者のお話とか。

 サイコロエチュード
サイコロを2個振って、出た目にあわせて役を決めたり、場所を決めたりする。

 しりとり会話
ある一音から始め、言葉の最後を次の言葉の最初にしながら、会話を続ける。
例えば、『こんにちは(わ)』『私の名前は田中太郎です』『素敵な名前ね』『ネーミングセンスがいい親です』というようにどんどん続ける。
大勢の時は、次の相手に向かって手の平を差し出す。』

 こちらも全ては読まないが、わりといろんなことが書いてある。
追々読んでいく形になるだろうと考え、ざっとめくると最後のページにはメッセージが書いてあった。
それはまるで一機が読むのを知っていたかのように。

『これからいろんなことがあるけど、めげずに頑張ろう。誰だって成長できるから、焦らないで。最初は一人なのはみんな同じだよ。それでも、きっと誰かが現れてくれる。きっと、きっとだよ。 Byサクラ』

 サクラ……!? あのサクラさんか! そういえば、サクラさんも一人だったんだっけ。なるほど、これはもしかしたらサクラさん自身のことも含めた、真山さんへのメッセージなのではないだろうか。くぅ。胸が熱いぜ。
と、一人興奮している所、何かに気づく。対面した最後のページに折りたたまれた紙切れが貼り付けられている。
何だろうと、留められていたテープをはがし、広げてみる。予想以上に大きなその紙は、表が書かれている。
一番上部分には『サイコロエチュード』と書かれているので、先ほどの練習で使うためのものだろう。しかし……。

 でかい。

 1メートルはあるだろうか。机には乗り切れていないで、端がだらりと垂れている。よくこんな大きなものが折りたたまれていたものだと感心してしまう。
下部分には、またもメッセージのようなものが書かれている。筆跡から見るに、サクラさんのものだろう。

『これは付属の12面体のサイコロを使ってね。新入生勧誘の場でやってみると面白く思ってくれるかも。なんて言ったって、二人だと77396705280通り! 誰が誰と(これは何人でもいい)いつ、どこで、どんな雰囲気で何かをするを決めてね。大勢でやると盛り上がるぞ☆!』

 茶目っけな部分も兼ね備えているとは、演劇人ってすごいな。などと妙に方向のおかしな考えをしている一機であった。
そういえば付属のサイコロとは、どこにあるのだろう?
そのサイコロは、程なくして見つかった。
顧問の竹内に聞いたら、ストップウォッチと共に、いくつかのタイプのサイコロが入った箱が手渡された。
ただ、今現在、サイコロエチュードどころか、ここに書かれた練習方法のほとんどが複数人で行うものなので、一機一人では発声しか出来ない。
それでも一機にとっては充分だった。ただの発声でも、演劇ノートの中にある発声についての項を読めば、様々なやり方が書かれている。
これにより、一機はたったの三週間で発声を上達させたのであった。

 

 

なかがき

 

 

●プロローグ……主人公熱血漢にしたいのに何だか微妙ね。まずいね。

●1.開演……二季は妹萌えキャラとして作ったわけではありません。というか作者にそのような技量はありません。後に大きな役割を果たします(3年期)。1年期では20話台で意味を成します。
あ、ちなみに1年期ごとに100話あります。最初は1〜3年期までを一つの物語にしようと思ったのですが、構想が膨らみ、まとめるよりも分けたほうがいいなと思いました。一応それぞれ3つどれから読んでもお話が分かるようなつくりにしたいです。
えーと、影響されたのは『ワンピース』『おおきく振りかぶって』のような長い話のつくりの演出ですね。構想を作り始めたのが当時高校生でした。練って練って練りまくりです。

● 2.早起きして三人の友……このお話で三浦が登場。当初、このキャラは主人公の演劇以外の普通の親友であり、お互いに信頼し合い成長を促す存在になるはずが、何故か段々へたれキャラへ。こんなはずじゃなかった。
今井と大内も登場。今井は爽やか、大内はのんびり力持ち。名前は分かりやすいようにしてあります。『世界は平和に満ちている』以上に名前にはこだわりがあります。ほぼ全員分。ほぼ。
一機は『あ』で始まる苗字で赤っぽいものを、名前は最初のきっかけを意味する『一番目の機会』で秋野一機。

●3.平成二十二年四月七日……この勝木工業高校は作者の母校をモデルとしておりますので、構造はほぼ同じです。まず南から本校舎(職員室、その他)、教室棟、電気・電子科棟、機会科棟となります。情報技術科棟は本校舎の西側にくっついています。
どこでもそうなのですが、最初来たときは迷いました。集合場所? どこ? あれじゃね? やべ他校だった。

● 4.自己紹介……キャラを覚えてもらうためには、ということでこれ。キャラ増やしちゃったけど。

● 5.部活動説明会……実際に受けたものを再現。実際では同好会長が出ましたが、たいした話は無かったです。
入る前は実は(どうせロミオォとか、ジュリエットォとか言ってるんでしょ)とか思っていましたが、全然そんなことはありませんでした。

● 6.担当顧問・竹内の提案……最初に見学しようとした時、非活動日で、次の日は部屋の中が賑やかで楽しそうな雰囲気でした。そのせいか入りづらく扉の前で立ち止まってしまって。でも一人気づいて扉を開けてくれました。今でもその先輩にはお世話になっております。人生の扉を開けたみたいな。いや冗談じゃなくまじで。運命変わりました。

● 7.若人よ、夢を持ち、前へ進め……一年の流れを説明する回ですね。このお話は、10話中一番思いを込めたお話です。作中の真山は自分をモチーフに。
実はわたしのいた演劇同好会は現実に廃部しております。作者を含めた二人の会員が最後でした。とても残念な思いのまま終わり、もしも後輩ができたらきっと嬉しそうに話すだろうな、と考えて台詞に乗せました。
現実の演劇同好会は続いたのが4年間ぐらいだった気がします。もし勘違いでしたら申し訳ありません。つまり作者の3つ上の先輩二人と当初顧問の先生が創立メンバーです。ですが……、その内、一人の先輩は病気で亡くなられてしまいました。当時作者は高校一年生で、顧問から突然話された覚えがあります。「君達には直接関係はしないけれども(3つ上なので会っていない)、話しておく」そう言って創立メンバーの一人でもある顧問の先生は話してくれました。一度も会ったことのない先輩ですが、演劇同好会を創ってくださった人です。何も感じないわけはありません。でも何もできません。どんな人だったんだろう、会って話してみたかったという思いだけでいっぱいでした。もしこの部活がなかったら人生は大きく違っていただろうし、事実関わってきた人はみんな違っていると思います。前述した扉を開けた先輩は、役者として演劇活動に励んでいます(元々写真部だったそうです)。わたしもこうして演劇を題材にした物語を書いております。この場をお借りして、伝えます。先輩方の創った演劇同好会、それに関わった人たちはそれぞれ、頑張っております。わたしもこの物語を書き続けたいと思います。これは先輩方のおかげです。ありがとうございました。

● 8.熱血少年……ちなみに実際は映像部ではなく文化映像部でした。その後放送部と名前を変えました。当初、機械操作は本当に苦労しました。最終的にスクリーン面倒くさいからテレビ自体に流して観てました。
そして本当に部屋の中汚かったなぁ。くさかったなぁ。印象としては残りやすい衝撃だったけど、夏場とかね。

● 9.生徒総会にて……そうです。ここで先ほどの文化映像部は放送部へと変わったのですね。
実際では、工業高校ならではの部活動がいっぱいありました。原動機部とか、電算機部とか。全部は覚えられなかったなぁ。ロボット研究会なんてのもあったっけかなぁ。
えー、そして、この日の一連の出来事により、一機は一人でとりあえずは演劇活動をすることを決意します。一気に5,6人ゲットだぜ! っていうのは初期段階では現実味が無い気がしたので、しばらく主人公だけで頑張ってもらいます。
勝工の生徒キャラも登場頻度が少なくなります。替わりに他の高校のキャラが少しずつ覚えやすい程度に増やしていくつもりです。ヒロイン? それも大分先だね。20話台ぐらい。しょうがないじゃないっ、男ばっかりの高校なんだから!

● 10.演劇同好会の歴史……顧問は実際でもコロコロと変わっていました。お世話になった先生は4人ぐらいかな。
過去の産物を漁っていると、よくわからないものでも情がわく感覚はありました。
一機は辛い過去というものは特には抱えていません。何故かというと、だいぶ大きな物語になるので、それに務まる性格でなければならないのです。重い過去をずるずると引っ張っているようでは、他のキャラを引っ張ることは出来ません。代わりにOBの過去を背負わせるという形になりました。
続く10話台は夏フェス編です。内容は夏フェスと講習会2日分通して、一機は『基礎』を学びます。『技術』は20話台の合宿編で鍛えます。それ以降は『●●編』『○○編』『秋大前編』『秋大後編』『文化祭など小休憩編』『春フェス準備編』『春フェス本番編』で、エピローグと。いやぁ、長いですね。しかもこれで終わりじゃないですからね。2年期、3年期と続くんだからもう。
ちなみに、この作品では「殺す」とか「死ね」とかいう言葉は出てきません。劇アツ!!は『活』のイメージで書いていますので。でも芝居中では出ます(なんじゃそら)。世界は平和に満ちているだと『命』が総テーマになってるので、逆ですけど。
まぁ、FUNKY MONKEY BABYSさんの『希望の唄』とかウォーターボーイズの曲とかワンピとかおお振りとか、聴きながらやってます。テンション上げて書いてますんで、これからもよろしくお願いします。

 

 

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